Y75_12_T001k_inx38_ios

         Ⅰ 国際環境法成立の歴史

1.国際環境法の基本原則 1941年          事件(米加仲裁裁判所)

  → 国家は他国の領域やその国民の身体や財産に害を与えるような方法で

    自国領域を使用したり使用させてはならない(         

法理)

 1950~1960年代 公海・宇宙空間などの領域外での行動に危険な活動の発生。

    生態系全体の保護やそのための国際協力の重要性が認識。

  → 油濁民事責任条約や宇宙損害責任条約の成立

 1972年 ストックホルム国連    会議

  → (         )、      」

 1980年代~1990年代 (     )全体に対する法益侵害の考え

  → オゾン層破壊防止や地球温暖化問題

2.地球規模の環境問題の顕著化

 (1)1987年 環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)

  →          (sustainable development)

        将来の世代の必要性を満たす能力を損なわずに、現在の世代の必要性

    を満たすことができる開発。

 (2)事後救済に加えて、事前救済方式/事前防止義務/利害関係国への事前通

  報義務・協議義務

 (3)開発途上国の貧困・人口増加の中での開発優先と工業化・都市化に伴う公

  害問題の発生

 (4)1990年代における環境悪化の責任論

  →    責任論   責任論

  → 国家領域内における資源の自由な利用と開発の権利

3.国連環境会議の開催

 1992年 環境と開発に関する国連会議(      )開催

(1)環境と開発に関するリオ宣言

  27の原則: 領域使用の管理責任(原則2)、開発の権利(原則3)、

(原則7)(環境保護の問題は世界各国に共通の課題であ

るもののそのための負担は経済力の程度に応じたものである)、   ア

プローチ(取組方法)(原則15)、汚染者負担原則(原則16)、

と協議(原則19)など。

(2)アジェンダ21(行動計画)

  リオ宣言の内容を実現し、21世紀に向けて地球環境を健全に維持するための行動計画を定めたもの。世界銀行、国連環境計画(UNEP)、国連開発計画(UNDP)が運営し、地球環境保全のために贈与または超低利融資で資金を供与する世銀の          を利用する。

(3)気候変動枠組条約(1992年)

  地球の気候は絶えず変化するため、基本原則を定めた枠組みを設け、細部は交渉にゆだねる方式。

  温室効果ガス削減義務→京都議定書

(4)生物多様性条約(1992年)

  すべての生物間の変異性と生態系、生物種、遺伝子資源の多様性保全を目的とする。これには、絶滅の恐れのない生態系の保全も含む。

(5)森林原則声明(1992年)

  森林の重要性の認識、森林保全と持続可能な管理の必要性

*2002年           で、ヨハネスブルク宣言と世界実施文書採択。

 

Ⅱ 国際環境法の特色

 国際環境法では、        文書が法の発展に重要な役割を果たしている。新たな慣習法の成立を待つ時間的余裕がなく、科学技術の発展によって人間の知見の範囲や程度が常に変化するため、新しい必要性に柔軟に対処するために  や      が重要な役割を果たす。

1.できるだけ多くの国に共通の規則を作る方法としての条約

 国際的に統一された規則を義務化するために条約は有効な手段である。

 <枠組み条約と議定書>

 最初に締結される文書(      )で、一般的な目的や原則相当の注意義務などを規定し、その一般的な義務を具体的に特定する   を後から締結して、その義務の内容や具体化と履行確保をはかるものである。

 ECE条約(ECE長距離越境大気汚染条約・1979年)とヘルシンキ議定書(1985年)・ソフィア議定書(1988年)が最初。普遍的なものとしての最初は、オゾン層保護条約(1985年)とモントリオール議定書(1987年)。気候変動枠組み条約(1992年)と京都議定書(1997年)。生物多様性条約(1992年)とカルタヘナ議定書(2001年)。

 →    を伴わない限り、一般的・抽象的原則や義務を規定したものに

とどまる。

2.将来の方針や原則の提示としてのソフト・ロー

 環境分野の条約は、経済的利益や科学的知見について、各国の利害が複雑に対立するため、     のある文書を作成して各国の同意を得ることがむすかしい。しかし、早い段階で一定の方針や認識を表明することが必要な場合もあるため、宣言、行動指針、会議の決議などの      によって将来に向けての方針や原則を提示することが重要な意味を持つ(→ストックホルム宣言やリオ宣言)。

Ⅲ 環境をめぐる紛争の予防と解決

1.金銭賠償の確保と問題点

 金銭賠償の充実は、     という点では重要だが、環境保護という点では

不十分である。

 ①金銭賠償の確保は特定分野に限定されている。

 ②金銭賠償はすでに生じた損害を補填する機能を持つにすぎず、

  をする権利を予定するものではない(ラヌー湖仲裁事件1957年、核実験ICJ

事件1974年、グレートベルト海峡通航ICJ事件1991年など)。

 ③金銭賠償は        を真に補填するものではない(1986年チェル

ノブイリ(チョルノービリ)原子力発電所事故*1後、原子力事故通報条約・原 子力事故援助条約)。

2.環境保護のための事前防止

①事前通報・事前協議・事前合意

 自国の行為が他国の権利に影響を与える可能性がある場合に、事前に相手

国に通報したり、協議したり関係国の合意を得たりすることを義務付ける。

→ バーゼル条約(有害廃棄物越境移動規制条約)(1989年)

             EIA

  計画段階での環境への影響の審査を行い、損害防止に貢献する。

3.防止から予防へ

や       *2

→ リオ宣言(1992年)15原則、気候変動枠組み条約(1992年)3条3項

4.環境に関する紛争解決

     などによる伝統的解決制度(1973年ワシントン条約18条、オゾン層保護条約11条、バーゼル条約、南極条約議定書20条1項、生物多様性条約27条、気候変動枠組条約14条など)

 → 人間環境を   とする立場での紛争解決には不十分。

 → 条約の    を図る「     :情報交換や締約国から提出された

報告書の検討、科学的知見の発展に寄与する追加的措置や補助機関の設

置など、条約の実施とその内容の改善に寄与する役割を果たす。

  • オゾン層保護条約のモントリオール議定書の

  ②気候変動枠組条約の第7回締約国会議の

   京都メカニズム、途上国に対する基金の創設、吸収源、      *3

Ⅳ 環境保護と経済発展

1.持続可能な開発の原則

 ①リオ宣言第3原則・第4原則

  開発の原則は現在および将来の世代の開発及び環境上の必要な衡平に合致

するように行使されなければならず、また持続的な開発を達成する上で、

環境の保護は開発プロセスと不可分一体のものであり、これと切り離され

るべきではない。

 ②ヨハネスブルグ宣言

  国家の経済的な発展の原則を認めつつ、それは現在から将来にわたる環境

の保護と両立するものでなければならない。

2.経済格差と環境保護

 企業活動の国際化と(             )

 ①        による海洋の汚染の防止・軽減・規制 [海洋投棄規制ロンドン条

約(1972年)・海洋投棄規制オスロ条約(同年)、国連海洋法条約210条等]

 ②     の移動全体を国際的に規制 [1989年バーゼル条約(1992年発

効、日本も1993年加入)

 ③途上国に     が子会社を設立し、先進国より低い環境規制基準を利

用した操業の問題

3.「          」原則と地球環境の保護

 環境保護における先進国と途上国との経済格差の考慮

 →リオ宣言第7原則「 * 」の明確化

 →気候変動枠組条約 附属書Ⅰ(日米欧などの先進国とロシア東欧などの市

場経済移行国)の締約国のみに温室効果ガスの削減義務を課し、附属書B

で各国ごとの排出割当量を決定。       (排出権取引、共同実施、

クリーン開発メカニズム)は、先進国と途上国の義務の内容の違いを反映

する制度。

  ⇒但し、近年はこの原則の固定的運用には批判も多く、すべての国が環境

   保護に参加するよう求められている。

4.自由貿易の発展と環境保護

 「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT)と世界貿易機関(WTO)による貿易

の自由化

  → 自国・自国外の領域の環境に影響を及ぼすような産品の貿易に制限を

課す政策や法令

  事例:1991年マグロ・イルカ事件(メキシコ対アメリカ)GATTパネル裁定

(環境を理由とする貿易制限措置と自由貿易推進のGATTとの抵触)*4

【解説】

1  チェルノブイリ(チョルノービリ)原発事故

 1986426日に、当時のソ連ウクライナ共和国で発生した事故であり、国際原子力事象評価尺度(INES)では福島原発事故と同じレベル7とされている。この事故は、停電の際の非常用電力供給システムをチェックするためのタービンテスト中に起こったもので、人的過失、原発機器の動作不良、原発の制度的・構造的欠陥が複合して発生したものと考えられる。事故の通報が3日も遅れた上、福島事故をはるかに上回る被害を各国にもたらしたにもかかわらず、ソ連は自らの国家責任を否定し、どの国もソ連に対して賠償請求を行わなかった。ソ連は、原発職員個人の過失は認めたものの、ソ連による原発管理体制自体には問題ないという立場であった。

 ソ連と言う国家自体の相当の注意欠如の証明と明確な因果関係を有する越境損害の発生の証明とが困難であったことが、ソ連の国家責任追及に対する障害となっていた。この事故の後、原子力事故早期通報条約、原子力事故援助条約、原子力安全条約、使用済燃料・放射性廃棄物管理安全条約などの条約が締結された。

慣習国際法上、国家は、他国や公海などの国家管轄権外の区域に損害が生じることををもって防止する越境損害防止義務を負っていることに留意。

 

*2  予防原則(予防アプローチ)

 予防原則とは、地球温暖化のように、損害発生の程度及び蓋然性が科学的に十分立証し得ない危険の回避・低減を目的とする。予防原則は、法的拘束力ある規範たることが含意されている(ヨーロッパ)のに対して、予防アプローチは法的拘束力のない単なる望ましい法政策的手法・指針たることが含意される(アメリカ、ICJ、国連等)。

 予防原則は、単に「警戒を怠るな」という弱い程度から、「無害性が証明されるまで活動を禁止する」(裁判においては        の転換につながる)という強い程度のものまで、様々な見解がある。国際司法裁判所ICJパルプ工場事件において、予防アプローチは立証責任の転換までもたらすものではないと判示している。

★【パルプ工場事件(アルゼンチン対ウルグアイ)ICJ判決 (2010.4.20.)

 アルゼンチンは、ウルグアイの許可の下、既に建設されていたウルグアイ川河畔の2つのパルプ工場によってウルグアイ川の汚染が生じるとして、ウルグアイ川の汚染防止を定めた1975年のウルグアイ川規程の違反を申立てた。国際司法裁判所は、ウルグアイによる手続的義務(    義務違反は認めたものの、実体的義務(       義務違反はなかったと判示した。

本件で最も問題にとなったのは、予防原則(予防アプローチ)に関してであった。アルゼンチンは、それが慣習国際法上確立しており立証責任の転換をもたらすと主張した。他方ウルグアイは、それが条約法条約31条(解釈に関する一般的な規則)3(c) (「3.文脈とともに、次のものを考慮する。・・・(c)当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則」)に鑑み考慮されなければならないが、あくまでソルトロー原則に過ぎず、立証責任の転換までももたらすものではないとした。裁判所は、その法的地位までは触れることなく、それがウルグアイ川規程の解釈適用指針となりうることを認めたが、立証責任転換論は斥けた。

本判決において、予防原則(予防アプローチ)が、ウルグアイ川規程の解釈適用にどのように反映されたのか明らかではない。しかしながら、汚染防止義務は一定レベルの警戒を持って相当の注意を払う義務であるとした点、環境影響評価義務と「最善の利用可能な技術」使用義務とを実体的義務と位置付け相当の注意義務な内実を構成するとした点、汚染発生の有無に関わりなく相当の注意義務違反の審査を行った点などに、その影響は見られる。

 

*3  不遵守手続き非強制的・支援促進的性格

 1) オゾン層保護モントリオール議定書  不遵守を疑われる国に対する警告や経済制裁

(貿易停止)

 2) 京都議定書 (履行)促進部と(履行)強制部が置かれ、不遵守国に対しては、排出

量取引等の適格性を停止したり、第一約束期間(2008~2012)における超過排出分の1.3

の排出削減を第二約束期間(2013~2020) 中に義務付けるなどの制裁措置が予定されてい

る。

 

*4 1991年のマグロ・イルカ事件(メキシコ対米国)GATTパネル裁定

  (Report of Panel, paras.5.27,5.32,30I.L.M.839(1994)

米国は、イルカの混獲率を超えて付随的にイルカを捕獲している(きんちゃく網漁)ことから、米国の海洋哺乳類保護法MMPA違反として、メキシコ産のキハダマグロ及びその加工品に対する輸入禁止措置をとった。メキシコはこれを不服としてGATTパネル(紛争解決手続)に申立てを行った。米国は、この措置は、GATT20(動物の生命又は健康の保護・有限天然資源の保護に関する例外規定)により正当化されると反論した。これに対して、GATTパネル裁定は、GATT20条は自国の主権外の動物や有限天然資源の保護をするため貿易上の措置をとることは認めていない。米国のGATT違反を認めた。

 *その後GATTパネルは、「第2マグロ・イルカ事件」でも同様な判断を示しているが、1998年の「小エビ事件」では、判断を変更している。

1.武力紛争法の基本的な考え方と構成

(1)基本的な考え方

 国際法は、国家間に対立や紛争が生じた場合には、まず交渉から裁判までのいずれかの

平和的解決を求め、自衛権行使や国際連合による軍事的強制措置のような場合を除いて武力の不行使を定めた。

 平和的解決手段といっても当事国同士の交渉がまとまる保証はなく、国際裁判を行う場合にも当事国の合意が必要である。平和的手段による解決が行き詰まれば、武力不行使原則にもかかわらず戦争や武力紛争を起こす国が現れる。一国内でも民族対立や権力闘争から武力紛争が生じる。反乱を起こすことは武力不行使という国際法上の原則の違反ではないが、政府軍と反乱軍(反徒)の間で国同士の武力紛争と同様の厳しさの戦闘が行われることも珍しくない。

 国際法は、こうしたさまざまな理由から発生する武力紛争における戦闘その他の敵対行為を規制し、武力紛争犠牲者を保護する詳細な規則を持つ。これらの規則の背景には、武力行使そのものが国際法上合法か否かは別として、武力紛争中の異常な心理に誘発される無制約の殺傷と破壊を防ぐ必要があるという考え方がある。このため軍事的合理性のある行為に勢力を集中させ、早期の勝利のためには不要な殺傷と破壊を禁止する諸規則が形成された。

(2)構成

武力行使が違法とされる前の時代では、敵対行為に関する規則を戦時国際法や戦争法と呼んだ。

武力不行使原則確立の後は、武力紛争法や国際人道法という呼び方が広まる。武力紛争法は、違法とされるに至った戦争という用語を避けるために使われだした名称である。国際人道法の呼称は、この分野の規則を人道的観点から再構成しとうとする働きを背景に、1970年代から赤十字国際委員会(ICRC)を中心に使われはじめた。当初は、武力紛争犠牲者保護の人道的規則を指していたが、敵対行為を規律する規則にも人道的要素があるため、これらも国際人道法に含まれるに至る。

ただし、一定の範囲で殺傷と破壊を許容する規則であるという本質を忘れさせるという懸念から、国際人道法という語の使用を避ける立場もある。ここでは、武力紛争法を用いる。これには、①敵対行為を規律する規則(1899年から1907年のハーグ万国平和会議で多数採択されたハーグ法)及び②犠牲者保護の規則(1864年以降ジュネーブで赤十字国際委員会が音頭をとって採択されてきたジュネーブ法)に二分される。

2.武力紛争法の適用に関する基本問題

(1)国際的武力紛争と非国際的武力紛争

 武力紛争法は、主に国同士の武力紛争を指す国際的武力紛争を念頭に整備されてきた。

国際的武力紛争が発生すれば武力紛争法の許容する範囲で人を殺傷し、物を破壊しても法的責任は問われない。普通なら人を殺せば法的責任が生じるが、国際的武力係争中は、武力紛争によりこれが変更される。国際的武力紛争には、ハーグ法とジュネーブ法の全面的な適用がある。条約としては1907年のハーグ陸戦条約附属規則、1949年のジュネーブ諸条約及び1977年のジュネーブ諸条約第1追加議定書が最も基本的なものである。

武力紛争に適用される最も基本的な現行条約

国際的武力紛争(国家間の武力紛争、交戦団体承認のある武力紛争、自決権行使団体の行う武力紛争) 非国際的武力紛争(一国内の内戦、外国に根拠地を持つ非国家的団体との武力紛争)
1899年(1907年改正) ハーグ陸戦規約(ハーグ第4条約)及び附属規則(1910年発効、締約国数41、日本1912年批准)

1949年 ジュネーブ諸()条約(1950年発効、締約国数196、日本1953年加入)

陸戦傷病兵保護条約(ジュネーブ第1条約

海戦傷病兵難船者保護条約(ジュネーブ第2条約)

 捕虜待遇条約(ジュネーブ第3条約)

文民保護条約(ジュネーブ第4条約)

1949年 ジュネーブ諸条約共通3条(ジュネーブ諸条約の締約国内で内戦が発生した場合に、戦闘外にある者の待遇について各紛争当事国が守らなければならない最低限度の人道的待遇を規定する。)
1977年 ジュネーブ諸条約第1追加議定書(1978年発効、締約国数174、日本2004年加入) 1977年 ジュネーブ諸条約第2追加議定書(1978年発効、締約国数169、日本2004年加入)

 国際的武力紛争が生じると適用される法規則が大きく変わるので、いつ国際的武力紛争が発生したかが重要な問題になる。国の軍隊同士の衝突があれば短期間の衝突でも武力紛争が存在すると考えられ、宣戦布告のような国の意思表示はその適用のためには不要である。

 国際的武力紛争以外の武力紛争を非国際的武力紛争といい、政府と反徒が争う内戦がその典型例である。以前は植民地支配下にある人民のような自決権を持つ人々が独立等のために植民地本国と戦う場合も内戦とされたが、第1追加議定書は、これを国際的武力紛争と規定した(14項)。

 非国際的武力紛争では政府軍と警察の行為は、国内法秩序を維持するためのものとされ、逆に反徒の行為はすべて内乱罪や殺人罪といった国内法上の犯罪を構成する。非国際的武力紛争は、警察と犯罪者の間の闘争であると国際法から認識される。非国際的武力紛争の武力紛争法は犠牲者保護のジュネーブ法が中心になる。非国際的武力紛争に適用される主要な条約規則は、ジュネーブ諸条約共通3条及びジュネーブ諸条約第2追加議定書(1977年)である。また、警察と犯罪者の闘争で、捕虜概念もないから政府は反徒を捕まえても捕虜として保護する義務はなく、国内刑法を適用して犯罪者として処罰できる。

(2)差別適用と平等適用

 武力不行使原則を諸国が守れば国際的武力紛争は生じないわけだが、武力紛争があれば、少なくとも一方の当事者は違法に武力行使をしていることになる。このような違法な武力行使を行っている国の武力紛争上の権利を否定するべきだという「差別適用論」が朝鮮戦争(1950-1953)の朝鮮国連軍で議論になった。

  しかし、どの国も自国が合法的に武力を行使していると主張し、国連の安全保障理事会も国家間の武力紛争で平和の破壊や侵略行為の認定をすることはほとんどない。この状況で差別適用を行えば、互いに相手の武力行使が違法であると主張して相手の武力紛争上の権利を否定することになる。それでは無法状態がもたらされるだけである。一方の違法性が確認されても差別適用をすれば、侵略国に属するとはいえ違法な武力行使に責任のない下級将兵の捕虜資格を否定したり、文民の保護を奪うことになる。差別適用には不都合が多く、実際にもこれがなされたことはまれで、平等適用が原則である。

  非国際的武力紛争の場合には、政府軍と警察は法の執行として発砲できるが、反徒側に殺傷と破壊を行う権利は国内法上あろうはずはなく、これをあえて差別適用という必要はない。

【ユス・アド・ベルム(jus ad bellum)とユス・イン・ベロ(jus in bello)

 武力行使や戦争に関する国際法をユス・アド・ベルムといい、武力行使そのものが合法か否かを判断する規則であり、国連憲章の武力不行使原則や自衛権行使要件の規定が含まれる。ユス・イン・ベロは、武力紛争開始後のその当事者の行動を規律するもので、武力紛争法や国際人道法と同義である。

3.敵対行為と戦闘員

(1)敵対行為参加の資格

  武力紛争法は、一定の要件を満たせば国際的武力紛争の相手方当事者を殺傷し、その物を破壊することを認める。

  国際的武力紛争では、国の軍隊構成員(衛生要員と宗教要員除く)、群民兵、占領地の組織的抵抗運動団体及び自決権行使団体の構成員が、戦闘員として敵対行為に参加する資格を認められる。こうした資格のため、これらの者は捕まれば捕虜として保護される。戦闘員以外の文民は、敵対行為参加を武力紛争法によって明示的には禁止されないが、敵対行為に参加すれば背信行為等の理由で捕まった際には法的責任を追及される。

(2)戦闘員の外見―背信行為と奇計

  戦闘員は敵を殺傷したり捉えられる際には武器を公然と携行するなどして戦闘員であることを外部に表示しなければならない。陸戦法規上は、傷病兵、投降兵、文民もしくは衛生要員その他の保護される者又は保護標章を付けた救急車などの特別に保護される物を装ってかかる行為をしてはならない。これに反すれば背信行為となり戦争犯罪を構成する。

  これ以外の方法で敵を欺瞞(ぎまん)することを奇計といい、原則的に許容されている。偽装やおとりの使用はこれに該当する。

(3)攻撃の対象―戦闘員と軍事目標

  戦闘員による殺傷や破壊は、敵の戦闘員と軍事目標に向けられなければならない。特に、軍事目標に関してこのことを軍事目標主義という。人的目標は、主に敵の戦闘員で、例外的に文民も敵対行為に直接参加している間は目標になる。物的目標は、第1追加議定書によれば、軍事活動に効果的に貢献する性格や機能を持つもので、その破壊がその時における軍事的利益を攻撃者に与える物と定義される(52条)。物については軍事目標以外をすべて民用物と呼び、民用物は攻撃から保護される。

  第1追加議定書以前は、国際的武力紛争当事者の領域を防守地域(防守都市)と無防守地域(無防守都市)に分け、占領を企図して接近する地上部隊に抵抗している地域と定義される防守地域には無差別攻撃が許容されるが、無防守地域では、軍事目標のみの破壊が認められるとの考え方がとられてきた。しかし、第1追加議定書によって、いずれの場所でも物については軍事目標主義だけによって攻撃の可否を判断することが求められる。

  攻撃では、相手が戦闘員や軍事目標かの識別が最初に求められる。これが確認されても、文民や民用物に巻き添えの損害(付随的損害)が過度に発生しないよう注意しなければならない。戦闘員や軍事目標の殺傷破壊から得られる軍事的利益と比べて付随的損害が過度ならば、軍事目標に対する攻撃も違法になる。

  都市を丸ごと爆撃するのは、文民と民用物も区別しない無差別攻撃であり違法である。都市内の軍需工場に投弾されても過度の付随的損害が発生すれば無差別攻撃とされる。破壊された際にその内部に蓄えられた力が解放されて周囲に甚大な損害を与えるダム・堤防・原子力発電所は、第1追加議定書によってそれが軍事目標であっても攻撃から原則として保護される(56条)。この議定書は、環境などに広範、長期的かつ深刻な損害を与えないよう注意を払う必要がある(35条、55条)。

(4)攻撃の手段―兵器の使用規制

  兵器の使用規制は、①無差別攻撃を及ぼす兵器の使用禁止、及び②過度の傷害や無用の苦痛を与える兵器の使用禁止の二原則に基づきなされる。

 ①無差別的攻撃を及ぼす兵器の使用禁止

  生物兵器・化学兵器は、使用者の意図にかかわらず広範に拡散する無差別性から、慣習法や毒ガス議定書(1925年)等の条約で使用が禁止されている。

  核兵器については、1996年の国際司法裁判所の勧告的意見では、核兵器の使用は、国際人道法に一般的に反するとし(そのため例外的に合法となる状況を読み込めるとの解釈あり)、自衛の極限状態での核兵器使用については判断を控えていた。核兵器禁止条約が201777日国連総会で採択され、2021122日発効し、規制が開始された。この条約では、核兵器の開発、実験、使用、使用の威嚇などを禁止(1条)し、定められた期限までに国際機関の検証を受けて核兵器を廃棄する義務を果たすことを前提に核保有国も条約に加盟できる(4条)とし、条約の運用などについて話し合う締約国会議や再検討会議の開催も規定される(8条)。

  通常兵器については、焼夷弾やクラスター弾が無差別的とされ、特定通常兵器使用禁止制限条約議定書Ⅲ(1980年)とクラスター弾条約(2008年)で、これらの使用制限・禁止が規定される。地雷も無差別的であることから、特定通常兵器使用禁止制限条約議定書Ⅱ(1996年)や 対人地雷禁止条約(1997年)が敷設制限・禁止を定める。

②過度の傷害や無用の苦痛を与える兵器の使用禁止

  主に戦闘員に対する兵器使用の場合に適用。文民に対しては、敵対行為に直接参加している場合や付随的損害を別にして、兵器によって障害や苦痛を与えることはできない。

  傷害と苦痛は戦闘員に対してのみ与え得るものであるが、戦闘員の戦闘能力を奪った上にさらに苦しめることは、②に抵触することになる。生物化学兵器や核兵器も同様である。通常兵器についても、ダムダム弾使用はダムダム弾禁止宣言(1899年)で違法とされ、プラスチック製爆弾も特定通常兵器使用禁止制限条約議定書Ⅰ(1980年)で禁止され、盲目化レーザー兵器も同議定書Ⅳで使用が禁止された。

  → 人工知能AIやサイバー戦等の新技術・新兵器に関する議論

4.犠牲者の保護

(1)傷病兵と難船者

  武力紛争犠牲者は、陸上戦闘での傷病兵、会場戦闘における傷病兵と難船者、捕虜、文民に分けられる。国際的武力紛争における犠牲者を保護する条約は、ジュネーブ諸条約と第1追加議定書、非国際的武力紛争に関しては、ジュネーブ諸条約共通3条と第2

追加議定書で保護規定がある。傷病兵と難船者の収容看護には主に軍隊の衛生部隊があたり、衛生要員と衛生輸送手段も保護されている(赤十字や赤新月の標章)。病院船や衛生航空機にも特別の識別規則がある。

(2)捕虜

  戦闘員資格を持つものは、国際的武力紛争で敵を殺傷破壊しても、それが武力紛争法に従ってなされる限りで、何の法的責任も追及されず(戦闘員特権)、捕らえられたのちも犯罪者ではなく捕虜として保護される。捕虜は保護対象であるため、誰が戦闘員資格を持ち捕まった後も捕虜として保護される資格(捕虜資格)を認められるのかが重要課題である(→正規軍以外の者に捕虜資格は与えられるのか?)

  ハーグ陸戦条約附属規則(1899年、1907年)は、正規軍将兵には条件なしで捕虜資格を認めたが、民兵や義勇軍は4条件(①指揮官の存在、②遠方からの識別可能の標章装着、③公然武器携行、④戦争の法規慣例遵守)を満たす場合のみ認める。群民兵は、③と④の2条件を満たせば、戦闘員と捕虜の資格が与えられる。

  捕虜待遇条約(ジュネーブ第3条約:1949年)では、占領地組織的抵抗運動団体の構成員にも上記4条件で捕虜資格を拡大した。さらに第1追加議定書では、植民地独立闘争のような自決権行使団体の闘争を国際的武力紛争としてそれら構成員にも捕虜資格を認めた。

(3)文民

  国際的武力紛争の当事者は、戦闘員と文民に二分され、文民は戦闘員以外のすべての者と定義される。文民の生命、身体、財産、名誉や尊厳は保護されなければならず、文民は直接敵対行為に参加しているときを除いて相手方武力紛争当事者の攻撃からも免れる(国際慣習法規則)。

  敵支配地にある文民が虐待されないように定める条約が、1949年の文民保護条約(ジュネーブ第4条約)である。

5.武力紛争法の遵守

(1)戦時復仇

  武力紛争法上の義務を守らせる手段(履行確保手段)としては戦時復仇がある。戦時復仇とは、相手の武力紛争法違反が生じた場合に同様な違法行為に訴え、相手に同様の損害を与えて法の遵守に戻らせるための措置である。

  戦時復仇は連鎖が起こりやすいことから、ジュネーブ諸条約や第1追加議定書はそれらの条約が保護する対象に対する戦時復仇を禁止した(留保する国も少なくない)。

(2)戦争犯罪処罰

  戦争犯罪とは、武力紛争法違反であって行為者の刑事責任を追及できる行為をいう。これらを武力紛争当事国の自国刑法に基づき自国や敵の将兵を戦争犯罪で処罰することができる。しかし、戦争犯罪は諸国に共通の法益や国際社会全体の法益を侵害すると考えられるものもあり(ジュネーブ諸条約や第1追加議定書の重大な違反行為)、武力紛争当事国以外の国も処罰可能である。

  さらに、国際社会全体の関心事であるような戦争犯罪に加えて、集団殺害(ジェノサイド)犯罪、人道に対する犯罪及び侵略犯罪を処罰する国際的な刑事裁判所(旧ユーゴ国際刑事裁判所、ルワンダ国際刑事裁判所、国際刑事裁判所等)が1990年代以降設置された。これは、諸国による戦争犯罪処罰の実績が芳しくなく、自国民を庇う場合も多いことから、国際的な裁判所による処罰の必要性が強調された結果である。